任意後見契約公正証書
あなたが十分な判断能力があるうちに、また、身体的に健康なうちに、将来、判断能力や行為能力が不十分な状態になった場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書で結んでおくもの、それが任意後見契約公正証書です。
事前に認識しておく点としては、任意後見人には、代理権のみが与えられ、本人がした法律行為の取消権や本人が法律行為をする場合の同意権は与えられていないことです。
総体的に考え、のちのちに発生する相続手続きにおいても、スムーズに処理される可能性がより高まります。
まずは不安解消のためにぜひご相談ください。
任意後見契約公正証書の必要性
死ぬまで健康で、これから先も判断能力が不十分になるとは思ってもいないし、ましてや認知症には絶対ならないと思っている方は、この任意後見契約公正証書を作成する必要はありません。
されど果たしてそんなにうまく人生が終わるでしょうか?
もし将来、普段の生活において、身体的支障がでたり、また介護を要することとなったら、とあなたは考えたことがありますか?
自分の家族(配偶者や子供等)に身体の介護、財産管理等すべて行ってもらう予定であっても、その時の状況によっては限界があり、自分の理想通りいかないものです。
例えば、
将来介護してくれると当てにしていた者(配偶者)の具合が悪くなった
⇒その後入院してしまった
⇒財産管理は誰がするのか不安になった
子供にも子供の家庭の生活リズムや基盤がある
⇒子供は、会社・職場ではセクションのリーダーである
⇒長期出張業務が多い⇒海外出張・海外赴任もある
⇒介護休暇を取得しずらい
任意後見契約公正証書を作成し、任意後見人と契約締結しても、その効力が有効となるのは、あなた自身が、判断能力が不十分となり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任し審判をした時であります。
つまり、あなた自身が、例えば認知症にならなく判断能力に支障が出ず人生を過ごせれば、この任意後見契約公正証書は必要なかったことになるのです。
任意後見契約公正証書の必要性の有無を判断されるのは、あなた本人次第ということになります。
任意後見人の選任ついて
これまで、家庭裁判所の後見人選任について、本人にある程度の現金資産がある場合は、弁護士ら専門職による後見人を選任するという傾向にありました。
しかし、2019年3月に最高裁判所は、後見人には「身近な親族を選任することが望ましい」との考え方を示しました。
最高裁判所は、本人の利益保護の観点から後見人にふさわしい身近な支援者がいる場合は、親族らを後見人に選任することが望ましいと提示し、また後見人の交代、追加選任についても状況の変化に応じた柔軟な対応を行うよう家庭裁判所に通知をしました。
これまで後見人となった家族の不正などを背景に弁護士ら専門職による後見人の選任が多い状態でありましたが、これからは身近な親族などが選任される傾向になると考えられます。
これからは、利用者に制度の活用についてメリット感が強まるものと考え、我々は上手に制度を活用していきたいものです。
参考まで、任意後見人に対する報酬額について、相場的に以下のようになっています。
☆ 親族等の場合
0円から3万円(月額)
*親族に依頼する場合は0円が多い
*有償で依頼する場合は2〜3万円
☆ 専門職の場合
3万円〜5万円(月額)
*本人の資産金額によって増額するケースがある。
家族会議は絶対必要
先程、「任意後見契約公正証書の必要性の有無を判断されるのは、あなた本人次第ということになります」と申し上げました。
やはり必要と判断されたならば、事前に家族間または親族間でご相談されるのがベストと考えております。
その議題は何?
⇒任意後見契約で定める契約内容について(身上監護・財産管理・その他事項)
⇒支援者(後見人になってくれる者)の意思確認
⇒後見人として取り扱う具体的業務の掌握
⇒後見人としての報酬月額について(無償でいいのか)
⇒支援者の資産状況の確認について(借入金などはないか)
⇒支援者の予備人員の選定について(不測事態に備え)
後見人には、資格等の法令上の制限による欠格要件はありません。ですが支援者を安易に決め、任意後見契約公正証書を締結しない方が良いと思います。
支援者はしっかりとした覚悟をもって締結に望まれることが必要となります。
任意後見契約を締結する
任意後見契約は、公証役場で締結します。全国どこの公証役場でも構いません。
本人と支援者(任意後見人)が以下の必要書類等を持参し、公証役場へ行き、公証人に対し公正証書の作成依頼をします。任意後見契約を締結するにあたり、2回〜3回は公証役場へ行くことになります。
必要書類について、いずれも発行から3ヶ月以内の書類を提出する必要があります。
必 要 書 類 等 | 取 得 先 | |
---|---|---|
本 人 | 戸籍謄本・住民票・印鑑登録証明書・実印・本人確認書類(運転免許証等) | 本籍地のある市区町村役場 |
支援者(任意後見人) | 住民票・印鑑登録証明書・実印・本人確認書類(運転免許証等) | 市区町村役場 |
本来は、本人および支援者が直接公証役場に赴き、公証人と契約内容について打合せを重ねながら、公証役場で公証人基本手数料等を支払って公正証書を作成するのが原則です。
しかし、退官された元裁判官や元検察官が多いとされる公証人と限られた時間内で打合せをすることは、相当な時間と労力が必要となります。
そこで、本人および支援者が行政書士に任意後見契約の原案を作成させ、公証人との打合せをする代理権を行政書士に与えることにより、本人および支援者の時間と労力を減らすことができます。
本人および支援者は、行政書士とともに、任意後見契約書の締結するときに、初めて公証役場へ行き、任意後見契約書を締結することになります。
前述した必要書類の取得についても、行政書士が職務上請求により各自治体から取得することができます。
真剣に任意後見契約書を締結したいとお考えの方は、一度行政書士へご相談されることをお勧めいたします。
任意後見契約にかかる費用(実費分)は以下のとおりです。
基本手数料 | 11,000円 |
---|---|
登記所へ納付する印紙代(収入印紙) | 2,600円分 |
登記嘱託手数料(収入印紙) | 1,400円分 |
郵便切手(簡易書留用) | 600円位 |
正本謄本の作成手数料 | 250円/枚 |
*本人が入院中などで、公証人が病院へ行き、公正証書を作成した場合は、別途日当および交通費がかかります。
任意後見制度の登記
任意後見契約書が締結された後は、公証人が東京法務局へ成年後見登記の嘱託をしてくれます。
依頼者(任意後見人)は、任意後見受任者と表現されます。
登記内容は以下のとおりとなります。
任意後見契約 | 公証人の所属・公証人の氏名・証書番号・作成年月日・登記年月日・登記番号 |
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任意後見契約の本人 | 氏名・生年月日・住所・本籍 |
任意後見受任者 | 氏名・住所・代理権の範囲 |
登記完了後、登記事項証明書の交付申請を所定法務局へ申請し、内容の確認をすると安心できます。
任意後見監督人選任の審判の申立て
本人の判断能力が低下してしまい、任意後見契約を有効にするためには、家庭裁判所に対し任意後見監督人選任の審判の申立てをし、任意後見監督人を選任してもらう必要があります。
任意後見監督人選任の審判の申立てができる人は、本人・本人の配偶者・4親等内の親族・任意後見受任者 です。
申立てに必要な書類は以下のとおりです。
申立書 | 申立書のほか、各家庭裁判所が定める書式(財産目録、収支予算表、事情説明書等)に記入を求められる場合 がある。 |
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標準的な申立添付書類 |
・本人の戸籍謄本(全部事項証明書) ・本人の住民票または戸籍附票 ・任意後見契約公正証書の写し ・本人の成年後見等に関する登記事項証明書 ・本人の診断書(各家庭裁判所の所定様式) ・本人の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金および有価証券の残高が分かる書類) ・任意後見監督人の候補者がある場合には、その住民票または戸籍附票 |
申立人は、本人が実際に生活している住所地を管轄する家庭裁判所に申立てをします。
申立にかかる費用(実費分)は以下のとおりです。
申立手数料(収入印紙) | 1,400円分 |
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登記手数料(収入印紙) | 800円分 |
郵便切手 | 4,000円位 |
任意後見監督人の選任
家庭裁判所は、約1ヶ月にわたり審理を行い、その結果を踏まえて、審判という手続きで任意後見監督人を選任します。
本人等が親族の選任を希望しても、任意後見監督人には専門職(弁護士・司法書士・社会福祉士・税理士等)である第三者を選任します。
ただし、家庭裁判所は以下の事情等を考慮した上で、任意後見監督人を選任いたします。
*本人の心と体の状態、生活状況、生活収支、財産等
*任意後見受任者の職業、経歴等
*本人の意見
*親族の意見
成年後見登記
家庭裁判所は、審判が確定した時点で、その結果の登記を東京法務局へ嘱託します。
嘱託約2週間後に登記が完了した後、登記事項証明書の交付申請を所定法務局へ申請し、内容の確認をすると安心できます。
任意後見受任者は任意後見人となり、契約に基づき任意後見人として本人の支援を行うことができます。
任意後見監督人は、任意後見人の支援行為を監督すことになります。
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